旧型「PSX」はアップグレードできるのか?, できること、できないと言うこと
旧型「PSX」はアップグレードできるのか?
リンク先は ITmedia のランキング記事ですが、一番最後に、
残念ながら、答えは“NO”だ。ソニーマーケティングでは、「見た目は従来機種と似ているが、中身は別物。旧機種のアップグレードは予定していない」と話している。「新橋23時」を体験したければ、新製品を購入するしかない。
とあり、Sony はとりあえず旧機種のアップグレードを予定していないことが読み取れます。
3度のアップグレードで当初アナウンスされていた機能はほぼカバーされ、早見再生や50種類のタイトルなど、アナウンスされていなかった機能も追加された以上、僕個人的には現状の PSX の機能にはそれなりに満足しているわけですが、「ビジネス」として考えると、この時点でのアップグレードの終了はうまくないようにも思うんですよね。
PSX が発表された当初、そのアップグレーダビリティはポジティブな機能として、つまり「次世代ホームエンタテインメントを実現する新しい機能もどんどんネットワークアップグレードで追加される!」というようなビジョンが提示されていたと思います。しかし、これまで行われた3度のアップグレードは、ネガティブなもの、当初アナウンスされていた機能のうち、間に合わなかったものを追加するアップグレードだったと、ほとんどのユーザは考えているのではないでしょうか。
今この時点でアップグレードそのものを止めてしまうと、ユーザ側の印象として、「ネットワーク・アップグレード」という機能に対して、ネガティブなイメージがついてしまうのではないかと思います。曰く、「ファームのバグや実装が間に合わなかった機能などを後から埋め合わせるだけの機能なのね」と。下手をすれば、今後アップグレーダビリティを持つ機械全体について、そういったネガティブイメージが支配的になってしまう恐れすらあります。
Sony としては一旦アップグレーダビリティを (ポジティブな機能として) 喧伝してしまった以上、「ポジティブな」アップグレードを (たとえ有料となったとしても) 一回はやっておく方が将来のためには良いのではないかと思うのです。こういう細かい施策が結構ユーザの心証として違ってきたりすると僕は思うんですよね1。
できること、できないと言うこと
kakaku.com の掲示板などでも上の話が少し話題になっているんですけど、ユーザの方々はびっくりするくらい何も言わずに、「少し残念だけどしょうがない」「やっぱりね」というような感想。このことは Sony にとってはかなり危険な状況ですよ。このことはつまり、Sony の言う明るい未来のビジョンは大抵の場合口だけだ、という認識がユーザの間にまかり通っているということでしょう。
エンジニアとして何年か働いてきて、その中で偉大な先輩方に教わったことに、「安易に『出来る』と言うなかれ」ということがあります。実社会で直面する問題は、大学の研究室で考えていたようなことと比べると技術的には「大したことない」と思えるようなことが多く、特に「顧客のことを考えて仕事をしたい」といつも思っているような意欲のある若いエンジニアほど、ついつい安易に「出来ます」と言いたくなってしまうのではないかと思います。
しかし実際には、ただ「作る」だけにしても単純に「技術」だけでは到底片付きません。ましてや実社会の中で継続的に運用していこうと考えればなおさらです。まさに「技術で解決できるような問題は小さな問題だ (by sak)」なのですね。
僕の知り合った中では、経験をつんだエンジニアほど、また技量の高い人ほど、技術的には簡単そうな問題に対してもなかなか「出来る」とは言いませんでした。彼の技量ならば技術的にまったく問題はないような場合でも、必ず一定の検討期間を設けてもらい、場合によってはあえて「出来ない」と言うことも数多くありました。
今の Sony を見ていると、経験をつんだエンジニアなら当然備えているはずのそういった慎重さを欠いているように感じることがあります。文系 (宣伝営業系) 出身の出井さんがトップにいるから、というのは免罪符にはなりません。ヴィジョナリーの仕事としては、出井さんの行われていることは間違っていないと思います。問題は、個々の製品を企画、宣伝する場面で、コンシューマにとって耳障りの良い「コトバ」を伝えることに必死になって、良いエンジニア的な慎重さを欠いてしまっていることです。どんなに夢のような未来を説いてみたところで、実質が伴わなければ虚しいだけです。虚しさは製品への失望へ変わり、ひいては会社への失望へと広がっていきます。
このことに気がつかない限り、たとえ出井さんが誰か他の人に変わったとしても、決して「Sony 復活」とはいかないのではないかなぁと、僕は思います。